大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所大法廷 昭和38年(オ)797号 判決 1966年2月23日

上告人

茨城県農業共済組合連合会

右代表者理事

新堀正孝

右訴訟代理人

大谷政雄

被上告人

塚田勝市

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大谷政雄の上告理由について。

農業災害補償法八七条の二によれば、農業共済組合は、農作物共済もしくは蚕繭共済にかかる共済掛金又は賦課金を滞納する者がある場合には、督促状により期限を指定してこれを督促することを要し、その督促を受けた者が指定期限までにこれを完納しないときは、市町村に対し、その徴収を請求することができ、市町村は、右請求に応じて地方税の滞納処分の例によりこれを処分すべく、若し市町村が右請求を受けた日から三〇日以内にその処分に着手せず、又は九〇日以内にこれを終了しないときは、農業共済組合は、都道府県知事の認可を受けて、自ら地方税の滞納処分の例により処分することができることになつており、右徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとされる等、その債権の実現について、特別の便宜が与えられている。また、きよ出金の滞納についても、農業共済基金法四六条により、前示農業災害補償法八七条の二の規定が準用され、右と同じ取扱いが認められている。かように、農業共済組合が組合に対して有するこれら債権について、法が一般私法上の債権にみられない特別の取扱いを認めているのは、農業災害に関する共済事業の公共性に鑑み、その事業遂行上必要な財源を確保するためには、農業共済組合が強制加入制のもとにこれに加入する多数の組合員から収納するこれらの金円につき、租税に準ずる簡易迅速な行政上の強制徴収の手段によらしめることが、もつとも適切かつ妥当であるとしたからにほかならない。

論旨は、農業災害補償法八七条の二がこれら債権に行政上の強制徴収の手段を認めていることは、これら債権について、一般私法上の債権とひとしく、民訴法上の強制執行の手段をとることを排除する趣旨ではないと主張する。

しかし、農業共済組合が、法律上特にかような独自の強制徴収の手段を与えられながら、この手段によることなく、一般私法上の債権と同様、訴えを提起し、民訴法上の強制執行の手段によつてこれら債権の実現を図ることは、前示立法の趣旨に反し、公共性の強い農業共済組合の権能行使の適正を欠くものとして、許されないところといわなければならない。

論旨は、また、農業共済組合連合会がその会員たる各農業共済組合に対して有する保険料債権に関しては、法は何ら特別の徴収方法を認めておらず、したがつてその徴収は、民訴法に基づく以外方法がないものとし、第一審判決を引用する原判決が公法上の金銭債権である共済掛金等の実現は民訴法に基づく強制執行によることは許されない旨判示したのは矛盾であるというが、この点につき原判決の引用する第一審判決は、法が特に行政上の強制徴収を認めた債権について、右の判示をしたものであることその判文上明らかであるから、所論の非難は当らない。

ちなみに、本件は、農業共済組合連合会が、その会員たる農業共済組合に代位して、農業共済組合の組合員に対し、右各債権を訴求したものであるが、元来、農業共済組合自体が有しない権能を農業共済組合連合会が代位行使することは許されないと解すべきである。

なお、その余の論旨は、何れも本件各債権に関する法条の趣旨を正解したものとは認めがたく、採用することができない。

論旨は、何れも理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。(横田喜三郎 入江俊郎 奥野健一 山田作之助 五鬼上堅磐 横田正俊 草鹿浅之介 長部謹吾 城戸芳彦 石田和外 柏原語六 田中二郎 松田二郎 岩田誠 下村三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例